「お前は血の気が多過ぎる」
私の左フックが課長のアゴを的確に捉え
課長は両膝を揺らしながら
私にそう言った
出世の可能性のある部下は
課長に対して従順だが
出世コースから早々に脱落した私には
課長に従う理由はない
「ついて来い」
課長はただでさえシャクれているアゴをさらにシャクらせ
私にそう言った
10分程歩いて着いたのは
献血車
「俺は常日頃から誰かの役に立ちたいと考えている」
そう言って課長は献血車へ入った
嫌な奴が善いことをしていると
こんなに腹が立つとは知らなかった
そう思いながら私も中へ入った
「こんにちは〜」
若くて黒髪の綺麗な女性が我々を出迎えた
課長の目的がこの女性であることは明らか
課長と女性がイチャイチャしているのを尻目に
私は強めの咳払いをしていると
別の女性が私に話しかけてきた
どうやらこの女性が私の担当らしい
中年で小太り
「おぉ、神よ」
私は頬を赤く染め そう呟いた
女性は眉間にシワを寄せながら
「献血は100〜2000mlを選べますが、いかがなさいますか?」
と聞いてきた
確かアカギが1500〜2000mlが致死量だと言っていた
善行を積むのがこれほどにも困難とは知らなかった
そう考えていると隣に座っている課長が
「400mlで」
と言っているのが聞こえてきた
課長には負けたくないが
ここで意地を張ると生命が危うい
400mlもピンときていないが
「私も400mlで」
と答えた
献血車の中ではおさるのジョージがエンドレスに流されており
「猿の血は何型だろうか」
そんなことを考えているうちに献血は終わった
「献血すると心が洗われた気分になるんや。ゲフ。なぁ、田中」
課長は無料のコーラを飲みながらそう言ってきた
心を洗うより会社から足を洗ってくれ。あとなんで関西弁やねん。お前は生まれも育ちも福岡市博多区やんけ。あとゲップすんな
たった一言でこれだけツッコミどころの多いコメントが他にあるだろうか
さらに私は田中ではない
そんなことを考えていると
課長のスマホが鳴った
「もしもし。何!・・分かった・・すぐに向かう」
何か深刻な事態が起こったようだ
課長は血相を変えてこちらを向き
「別居中の妻が事故に遭ったと不倫相手から電話があった。俺はこのまま深夜バスで大阪へ向かう」
このコメントもツッコミどころが多過ぎるが
急いでいるなら新幹線で行けよ
そう心の中で思いつつ
「いってらっしゃい課長」
私がそう見送ると課長は振り返り
「課長じゃなくて、部長だから。俺は」
立っているだけで汗ばむ
そんな夏の日の出来事だった














































